2020年4月1日の民法改正により、「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが「契約不適合責任」に変わりました。これまでは売主が知らなかった「隠れた瑕疵」(不具合や傷)であるかが問題だったのですが、改正後は「契約した内容に合っているか」が焦点となります。そもそも売主は契約の内容に合ったものを買主に引き渡す義務を負っています。引き渡したものがその種類や品質、数や量について「契約内容に適合していない」と判断された場合には「債務不履行」となり、売主は買主に対して責任を負わなければなりません。
売主の責任がより重くなったわけですが、こうした売却に伴うリスクを少しでも軽くするには「契約内容と異なる」状況を作らないことです。しっかりと売買契約書に物件の状況と契約条件を記載しておくことがポイントとなります。
「物件状況報告書」で不動産の状況を把握
不動産の売買に登場する書類には「重要事項説明書」と「売買契約書」があります。この二つは売買契約に欠かせないものですが、中古物件の売買の際には「物件状況報告書」を作成することで契約不適合責任を問われるリスクを回避できます。決して義務つけられた書類ではないのですが、物件を引き渡した後で「こんな不具合聞いていない」「こんな状況を知っていたら契約していなかった」といったトラブルを予防できます。
もし物件状況報告書がなかったために契約不適合責任を問われると、
・売主負担で老朽箇所を補修する
・不具合が補修できない部分に相当する金額について、売却代金の返還を求められる
ことが考えられます。また最終的には物件の不備を理由に売買契約を解除される可能性もあります。
「物件状況報告書」は、こうした売主の負担を減らせる有効手段なのです。
「物件状況報告書」の中身
「物件状況報告書」とは、売買物件の現状を説明する書類です。「告知書」「物件概要書」という名称で呼ばれることもあります。具体的には
・建物の基礎、給・排水管、バルコニーなどの老朽化の現状
・土地の境界確定の状況
・騒音などの近隣の状況や周辺の建築計画
・マンションの場合には管理費の滞納状況や管理組合に関する事柄
などがあります。
では物件状況報告書の見本の記載項目を見てみましょう。
【建物】
- 雨漏り
- 白アリ
- 給水管・排水管の故障、漏水
- 室内の天井、床、階段、手すりなどの不具合
- 建物の瑕疵(傾き・腐食・不具合等)
- 外壁、基礎
- 雨樋
- その他
- 住宅性能評価書
- 耐震診断
- 増改築・修繕・リフォームの履歴
【土地】
- 境界画定の状況・越境
- 土壌汚染の可能性
- 地盤の沈下、軟弱
- 敷地内残存物(旧建物基礎・浄化槽・井戸等)
- 排水桝
- その他
【周辺環境】
- 騒音・振動・臭気等
- 周辺環境に影響を及ぼすと思われる施設等
- 近隣の建築計画
- 電波障害
- 近隣との申し合わせ事項
- 浸水等の被害
- 事件・事故・火災等
- その他、引き継ぐべき事項
例えば「雨漏り」の項目では具体的に
□現在雨漏りをしていない
□過去に雨漏りがあった
箇所: 修理工事 未:済(昭和・平成 年 月頃)
□現在雨漏り箇所がある 箇所:
いずれかにチェックを入れる形式となっています。
さらにマンションでは下記項目が追加されます。
【管理組合】
- 管理費・修繕積立金の変更予定
- 管理費・修繕積立金の滞納
- 大規模修繕の予定
- 自治会費等
- 管理組合での討議事項
物件状況報告書を作成するポイント
こうして見てみると、「重要事項説明書」の中でも説明されるべき事項と重複する部分もありますが、重要事項説明書は不動産会社が作成し、宅地建物取引士が説明する書類です。「物件所不況報告書」は売主が作成するものですので、知っている情報や事実は包み隠さず伝えた方がトラブル防止につながります。たとえ不具合があったとしても、「いつどのような対応がされて、現在どのような状況か」を具体的に記載すれば、補修費用や再発の心配がありません。また買主もあらかじめ知っておくことで、安心して契約することが出来ます。「その状態を了承して契約した」事実が重要になるのです。
特に近隣状況については、細心の注意が必要です。音や匂いに関しては感じ方に個人差がありますので、どんな些細なことでも記載しておきましょう。「私はそんなに気にならなかった」と感じることも、買主にとっては大問題となるケースもあります。
ただ親の代から受け継いだ戸建てなどでは、昔の状況や対応を正確に把握することは難しいかもしれません。物件の売却活動を始める前に、しっかりと時間をかけて報告書を作成しましょう。より正確な物件状況報告書を作成するためには、有料ですが「既存住宅状況調査」(ホームインスペクション)を利用する方法もあります。
このように「物件状況報告書」は売主にとっては「契約不適合責任」を回避するものとなり、買主にとっては安心して中古物件を購入する判断材料となります。