「相続税対策のためにマンション購入する」という話をよく聞きます。不動産購入は節税効果が高いと言われ、資産形成にもなるので一石二鳥になるのですが、これは相続税を算出するときの仕組みに一因があります。現金だとその額面が相続税の評価額となります。例えば1億円の現金を相続した場合、この金額にそのまま税率を乗じて相続税を算出します。しかし、不動産の場合は購入価格が評価額とはならず、相続税法で定められた式を用います。一般的に購入価格よりも相続税評価額が低くなるので、差額が大きくなればなるほど節税効果があるというわけです。
しかし令和4年4月19日、こうした節税対策を「NO」とする最高裁判決が出て大きなニュースとなりました。一体どういう内容だったのでしょうか。
不動産の相続税評価はどう計算する?
まずは相続税を算出するときの、不動産の評価方法を見てみましょう。
評価は土地と建物に分けて計算します。
【市街地の土地】
相続税評価額=相続税路線価×面積×補正率
毎年7月に発表される土地の路線価(1月1日時点での、その土地が面している道路ごとに決められた1㎡単価)が基になっています。「東京銀座の一角が日本一の路線価だ」というニュースを目にしたことがあると思いますが、これがいわゆる「土地公示価格」です。相続税路線価は、土地公示価格(時価)の約80%となります。この時点ですでに時価の2割安となっています。
【建物】
相続税評価額=固定資産税評価額×1.0(賃貸物件の場合は、さらに×0.7)
建物は購入価格ではなく固定資産税評価額を基にします。新築建物でも価格の50~60%と言われ、すでに節税効果があると言えます。その物件を賃貸していれば、さらに評価額は低くなります。
マンションの場合は、土地を持ち分で所有しています。大規模物件やタワーマンションだと戸数も多く、一戸あたりの土地面積割合は非常に小さくなるので、相続税対策で購入するのに向いているのです。
最高裁判決の事例
ではここで令和4年4月19日判決の事例を見てみましょう。節税対策で購入したマンションの相続税評価が
不当とされ、相続税0円で申告したものが最終的に3億3000万円に覆された一件です。
当時90歳の被相続人Aさんは、本人名義で東京・杉並のマンションAを8億3700万円で購入(金融機関から6億3,000万円を借入)します。さらに91歳になった時に2物件目の川崎市のマンションBを5億5,000万円で購入(金融機関から3億7,800万円を借入)します。3年後に被相続人Aさんは94歳で亡くなり、翌年相続人がマンションBを5億1500万円で売却しました。その後共同相続人とともに「相続税0円」で申告を行いました。
しかし国税局はこの申告を認めず、相続税評価額を「不動産鑑定」によって評価すべきとし、最終的に3億3000万円の追徴課税とする判決が出ました。
「相続税0円」VS「追徴課税3億3000万円」
Aさんの相続人達は当然、本来の相続税計算に基づいて節税を行ったと主張します。Aさん自身も節税対策をめいっぱい利用して準備していたはずです。
マンションAとBの購入金額は合計計13億8,700万円になりますが、路線価方式を利用して相続税評価額を計算すると2つのマンションの評価額は3億3000万円、つまり元の価格の4分の1までダウンすることになります。加えてAさんは銀行から融資を受けて購入していたため、さらにその分がマイナスされます。相続税の基礎控除なども考慮すると、最終的に相続財産がそれを下回り相続税0円となる計算でした。
しかし、最高裁は
- 高齢の被相続人Aが、短期間に相続税対策のために不動産を購入した
- 「節税対策を目的」とする10億円以上もの借り入れを行っている
- 投資で利益を上げるといった、相続税対策以外の経済的合理性が認められない
- 相続人がすぐにマンションB を売却し現金化している
といった行動を問題視しました。
本来ならば時価で相続財産を評価するのが原則ですが、時価の判定に相当の時間と手間を要する不動産は「財産評価基本通達」という基準を設けて路線価方式を採用しています。今回の相続人はまさにこれを利用したわけですが、実は例外を認める規定が存在しています。
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」(第6項)
裁判ではこの規定によって路線価ではなく「不動産鑑定士」による評価が採用され、鑑定評価額は12億7300万円が妥当とされました。結果3億3千万円もの追徴課税となったのです。
今後の相続税対策はどうなる?
一般人からみれば、13億円もの金額を投じたマンションの価値が相続評価では3億に減額されるギャップに驚いてしまいます。しかし、判決ではこうした金額の乖離が論点となったのではありません。相続人が主張した「相続税評価における平等原則」よりも、「租税負担の公平」、つまりこのような節税対策をしない、したくても出来ない納税者との間に不均衡が生じていることが問題だったのです。
今回の判決は「ついに国税局が伝家の宝刀を抜いた」と言われています。これまで以上に「節税を目的とした、行き過ぎた相続対策」によるマンション購入は気を付けた方が良いでしょう。
相続対策は早目に着手し、贈与を含めて計画的に進めるのが一番です。また、相続した不動産の早期売却も目を付けられやすいので、できるだけ避けましょう。