2022年5月18日に宅地建物取引業法が改正され、ついに不動産取引における電子契約が可能となりました。これは政府の掲げた『デジタル社会の形成を図るための関連法律の整備に関する法律』に基づくものです。
元々不動産取引を行う際には、対面でお互いに書面を交わすスタイルが慣習化していました。土地や建物という高額なものを取引きするのですから、当たり前のことだと思いますが、最近のビジネス環境では、様々な場面で飛躍的に電子化(デジタル化)が進んでいます。この度の改正で、不動産取引の手続きはどのように変化するのでしょうか。
背景:オンラインでの手続きが一般化した
実は不動産取引の電子化は、いきなり決まったわけではなく数年前から段階的に進められていました。
まずは『IT重説』の社会実験が2015年8月からスタート。これはあらかじめ相手方書類を郵送した上で、オンラインで重要事項説明を行う方法です。
その後、『電子書面交付』の社会実験がスタートしました。こちらは書類を電子データで相手方に送付し、オンラインで重要事項説明を行う方法です。運用していく中で大きな問題もなかったことから、正式に法案が成立し、晴れて5月18日より施行となりました。
不動産業界では近年、ポータルサイトや各不動産会社の公式ホームページも充実していてオンラインでの需要が非常に高まっています。またコロナ禍の影響も相まって、非対面で手続きが完了することへのニーズが生まれました。タブレットやスマホを活用して、オンラインで内見や相談が可能になり、一度も現地を訪れる事なく契約まで進むケースも増えています。
こうした時代の変化があり、書面と対面、押印がマストであった宅建業法が大きくデジタル化へ舵を切る事になったのです。
電子化される文書とは?
現在運用されているIT重説では、まだ全面的にデジタル化されている訳ではありません。あらかじめ、重説事項説明書などの書類は相手方に郵送する形式をとっています。書類を手元に置き、遠隔地で説明を行なっている状態です。今回の改正では、これまで郵送していた重要事項説明書に加えて、賃貸借契約書、定期借地権設定契約書、定期建物賃貸借契約書、媒介契約書、不動産売買契約書が電子化されることになりました。
電子契約のメリット
これまでのような書面を発行して対面で契約手続きを交わす方法に比べ、電子契約の一番のメリットは『時短』『スピードアップ』です。まずは郵送に掛かっていた時間が不要となり、売主・買主、不動産会社など関係者のスケジュールを調整することも簡単になります。
電子契約では書面をデータ化して送るので、時間や場所を選ばずスピーディーに手続きを完了することが出来るのです。遠方から出向かなくてはならない場合には、交通費も不要となります。また忙しい人には移動中の時間を利用することも出来ますね。
さらに、コスト削減という意味では契約書に貼付ける収入印紙が不要となります。
売買価格が
500万円超1,000万円以下•••1万円(5千円)
1,000万円超5,000万円以下•••2万円(1万円)
5,000万円超1億円以下•••6万円(3万円)
()内は令和6年3月31日までの軽減措置
これらの印紙税がかかりません。
電子契約のデメリット
電子契約である以上、やはりセキュリティ上のリスクは0ではありません。個人情報をやりとりするので、不動産会社側はしっかりとセキュリティ対策をしているはずですが、それを含めて事前に電子契約を行うことについて同意を表明する必要があります。
電子契約が始まったと言っても、必ずしもその方法をとる必要はありません。これまで通り、書面で対面での契約を選択することも可能です。
電子契約に必要な設備
電子契約にはパソコン、タブレット、スマホといった端末、通信が良好なネット環境などが必要です。
電子契約中、やむなく途中で通信が途絶えたりした場合には中止することや、書面での契約に切り替えることも決められています。契約書面はデータ化して送られてくるため、自身で紙媒体にプリントアウトする、USBなどにデータをきちんと保管できるようにしておくなどの対応が顧客側にも求められることになります。
また宅地建物取引士の押印が不要となったことも、今回の法改正の大きなポイントです。説明を受ける側は、手続きの初めに『宅地建物取引士証』を画面上で必ず確認する必要があります。証明書の写真の人物と同一か、氏名、生年月日が間違いないかなどをこれまで以上に慎重に確認しましょう。
電子契約はインターネットを駆使した方法です。普段使い慣れていない人に無理に利用する義務はありません。あくまで同意の上での利用となります。操作の補助をしてくれる人に同席してもらう、事前に通信が繋がるかを試しておくなどの工夫も必要です。
今回の宅建業法改正で不動産業界自体が大きく変わることになります。利便性やスピードを追求するだけでなく、これまで以上に慎重な対応が求められる場面も増えるでしょう。